スフィアストライプバッグができるまで

2025年、トリプル・オゥはブランド誕生15周年を迎えました。

これまで糸のアクセサリーを中心に展開してきたブランドが、新たな挑戦として送り出したのが「スフィアストライプバッグ」です。

ビビッドなカラーとコンパクトなサイズ感が目を引く、アクセサリーのように楽しめるミニトートバッグ。

企画を担当した新井さんに話を聞くと、その始まりは2024年に「地産地匠アワード優秀賞」を受賞した刺繍ポシェットにありました。

「受賞したポシェットは、アートピースとして完成度の高い作品でした。でも次につくるなら、もっと毎日使ってもらえるものにしたいと思ったんです。トリプル・オゥの刺繍を、もっと身近に感じてもらえるバッグを目指しました。」(新井)

財布やスマートフォンなど必要最低限の荷物だけを持ち歩く、現代のライフスタイルに合ったサイズ感。バッグとして実用的でありながら、アクセサリーづくりで培ってきた「軽やかさ」と「上質さ」をどう表現するか。それが開発のスタートでした。

目次

半年かけて見つけた、トリプル・オゥらしさ

「ひと目見て、トリプル・オゥだと分かるバッグにしたかったんです。」

新井さんがそう語るように、デザインの軸になったのはブランドの象徴である「スフィア」です。

丸い糸玉をストライプ状に並べることで、遠くから見るとすっきりとしたストライプ柄に、近づくと一粒一粒のスフィアが浮かび上がる。そんな二つの表情を持つデザインが生まれました。

完成イメージのサンプルで作ったミニチュアバッグ。カラフルな配色が可愛い
糸玉の大きさや針の打ち込み回数・素材による風合いの違いを確認する試縫い。刺繍を施すことで変わる硬さや重さ、見た目のインパクトなど、程よいバランスを追求する。

実は開発当初、「糸だけでバッグをつくれないか」という案もありました。

「アクセサリーのように、できるだけ糸そのものの魅力でつくりたいという思いはありました。」(新井)

しかしバッグは毎日使うもの。軽さだけでなく、丈夫さや使いやすさも欠かせません。

基布を使わず、カサモリレースだけで構成する方法も試しましたが、刺繍時間が長くなり、バッグ自体も重くなってしまいます。また、スフィアを際立たせるため半透明の生地も試しましたが、理想とするハリ感は得られませんでした。

ファーストサンプルのBAG。基布に半透明の生地を使い、スフィアが浮き立つようなテキスタイルになるも、ややハリが少ない印象

素材を一つひとつ検証した結果、たどり着いたのがポリエステルツイルでした。

発色がよく、摩擦にも強い。さらに刺繍を施すことで布に程よいハリが生まれ、自立しやすく上質な表情になります。

BAGのパターンに切り抜いた生地にスフィアの糸珠を刺繍していく。

バッグとしての丈夫さと、刺繍ならではの美しさ。その両立を目指し、約半年にわたって試作を繰り返しました。

サンプルでは縫えても、量産では縫えない

デザインが決まり、いよいよ量産が始まります。

しかし、ここからが本当のスタートでした。

サンプルは一台のミシンで縫いますが、量産では一度に複数枚を同時に縫う多頭刺繍機を使用します。

同じ刺繍データでも、環境が変わるだけで思わぬ不具合が起こるのです。

量産を担当したミシンオペレーターの福田さんは、当時をこう振り返ります。

「土台の生地をチェーン刺繍で縁取る工程では、生地と刺繍が重なる部分に厚みが出てしまい、針が何度も折れてしまいました。重なる部分だけ刺繍データを修正し、針数を減らすなど細かな調整を繰り返しました。」(福田)

サンプル機の前で試行錯誤する新井さん(画像左)と福田さん(画像右)

さらに難しかったのが、バッグ全面を埋め尽くすスフィアの刺繍でした。

「バッグを埋め尽くすスフィアの刺繍は、真ん中から縫い始めて片側を縫い終えるまでに半日ほどかかります。その間に土台の生地が少しずつ縮んでしまい、反対側を縫う頃には柄がずれてしまう。最終的には左右を交互に縫う順番へ変更することで、柄ずれを防げるようになりました。」(福田)

縫い上がりの状態。水溶性の不織布に縫っているため、このあとお湯で芯地を溶かし、BAGのみを取り出す。
最後は人の手で仕上げを。縫っているときには気が付かない糸の微妙なほつれなどを針と糸を使い丁寧に修正していく。

職人の感覚が、美しい刺繍をつくる

スフィアストライプバッグ1点に施される刺繍は約20〜23万針。

刺繍工程だけで約5時間を要し、1日に仕上げられる良品は4〜5点ほどです。

しかし、時間がかかる理由は針数だけではありません。

アクセサリーよりも太い糸を使うため、糸調子の調整が非常に難しいのです。

刺繍は、上糸と下糸のテンションがわずかに変わるだけで仕上がりが変化します。その最適なバランスはミシン一台一台で異なり、素材やデザインが変われば、針の種類や太さ、糸の強さまで見直さなければなりません。

「ミシンの速度を上げても安定して縫えるよう、糸調子は常に意識しています。機械の状態を見ながら、感覚で合わせていくことが大切です。」(福田)

その”感覚”こそが、長年積み重ねてきた職人の経験です。

「現場の職人が経験を積み重ねながら、『このデザインなら、この糸調子』という答えを見つけてくれるからこそ、初めて形になります。今回のバッグづくりを通して、改めて刺繍は人の技術で完成するものだと実感しました。」(新井)

一見するとシンプルなストライプ柄のバッグ。

その一針一針には、企画者の想い、職人たちの技術、そして半年にわたる試行錯誤が積み重なっています。

刺繍で、婦人雑貨に新しい価値を

今回のバッグは、トリプル・オゥにとってゴールではなく、新しいスタートです。

「婦人雑貨を刺繍でもっと面白くしたい。」

そう語る新井さんは、今後の構想として、大きなバッグやバッグチャーム、ゴールドやシルバー単色で仕上げるバッグなど、新たな展開も思い描いているとのこと。

刺繍だからこそ生まれる価値を探しながら、トリプル・オゥの挑戦はこれからも続いていきます。

Stitch

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