コロナ渦で私達にできることはなにか?その問いのなかでスフィア・プラスの改良が一つの大きなミッションでした。中心となったスタッフはオンラインファクトリーツアーでもおなじみのミシン担当大井。今回スフィア・プラス改良のきっかけと改良までの道のりをインタビューしました。

聞く人(右):野村

聞いた人(左):大井

 

スフィアプラスを改良しようとなった経緯は?

野村:スフィア・プラスが誕生して8年。今までミシン単位での調整はあったものの、元となるパンチ(※)から改良することとなったのは初めてです。どのような経緯で改良に至ったんですか?

(※パンチ・・・刺繍データのこと。このデータ通りにミシンが動く)

 

大井:以前からミシンによって縫い上がりに差があることが問題点としてありました。職人の細かな調整と仕上げで補っている部分が大きかったのですが限界は感じていました。

改良のきっかけとなった新作KASANEシリーズ

野村:改良の大きなヒントとなったのが2020年春にリリースしたKASANE(カサネ)シリーズだとか…

KASANEシリーズ。はじめに縫った球の上に2色目の糸を重ねていく繊細なディテールが特徴。

 

大井:私はサンプルの段階からKASANEシリーズ(以下カサネ)を担当して縫っていました。そこで仕上げの人からカサネの上がりがきれいなので、仕上げはあまり大変じゃないよ~と聞いていたんです。

(直すのが面倒そうなので、最初の方はヒヤヒヤしながら洗いに出していて、結構まめに上がりについて仕上げの飯野さんに聞いていたかも)

大井:カサネは直しが大変(できない)なので、いつも以上に、糸調子・糸切れ対応を丁寧に最新の注意を払ってやっていたので、それが一番の理由かと思っていたのですが…

 

野村:どこでその考えがかわったんですか?

 

大井:ある日、自分でカサネの仕上げをしていたときにふと思ったんです。

カサネがきれいな理由はザクザクと縫い重ねているからではないか?と!

つまり、トリプル・オぅのすべての玉をカサネのようにザクザクと角度をずらして縫い重ねていけば、糸の重なり(偏り)による形崩れがなくなるのでは?と。

 

野村:なるほど、そこで仮説がうまれたんですね。

大井:片倉さん(開発リーダー)に相談してみたところ、やってみる価値はあるんじゃない?といってもらい

試しに1色でカサネのパンチをそのまま使って縫ってみました。

 

野村:どうでしたか?

 

大井:予想以上にきれい!当時一番操るのが難しいミシンの長尾さんのところで縫ってもきれいでした。翌日、プログラマーの岡田さんにカサネ戦法でのパンチ修正を依頼しました。

試行錯誤のパンチ改良

大井:パンチは一型につき4〜5回修正しました。パンチのノウハウがないのでプログラマーの岡田さんとやり取りを繰り返す地道な作業でした。

 

《試作1》

大井:一番はじめはピッチ(糸の間隔)に微妙な違いをつけて4パターン作成しました。

野村:今までのスフィアプラスと違いは出ましたか?

大井:ザクザクしすぎると糸の光沢感がなくなるということがわかりました。その中で光沢感・形のバランスのよいパターンを発見しました。

 

《試作2》

野村:これで完成!というわけではなかったんですよね?

 

大井:岡田さんのプログラマー魂に火が着いたんです!以前から岡田さんが気になっていた横から見たときの角張った感じを改良するため、さらに試作1の進化系を4パターン作成しました。

 

野村:”どの角度からみても球体”を目指したんですね。

 

大井:ただ、完全な球体をスフィア・プラスの大きさで再現するには難しかったんです。

 

野村:どうしてですか?

 

大井:完全な球体の再現にはある程度の大きさが必要だったんです。(スフィア・プラスで再現しようとすると、どんどん巨大化してしまう!カラーコンビのように・・・) 

 

野村:それはやってみないとわからなかったことですね!

《試作3以降》

大井:それ以降は試作1をベースに微調整していきました。試作2を踏まえ、球体に近づける試みもやっています。

 

野村:スフィアは「球体」を意味しますからね。

 

大井:ただ、やっぱり球体の追求=スフィアの巨大化は避けられず…

片倉さんの判断を仰ぎながら、形の美しさ(球体の追求)を優先することになりました。

 

野村:どうやって解決したんですか?

 

大井:粒が大きくなることと、どうしても針数増えてしまうことがネックで...それなら粒を減らそう!と現行のスフィア・プラスから粒を2つ減らしました。

 

野村:そうなんですよね、粒を減らしても見た目はほとんど差がないことに驚きました。

 

改良当時。新しいパンチが出来るたびにそれにあった縫い方をミシン担当の3人で話し合った。

ついにニュー・スフィア・プラスの完成!

右が改良前。不良として弾いていたもの。左が改良後。きれいな放射線を描いている、

 

野村:まさに試作に試作を重ねてという感じですね…現在どのくらい改良は進みましたか?

大井:あとは一番古いミシンで一定数縫って、着用テストをクリアできれば実用化!という段階です!

野村:私が現在ついているミシンですね。責任重大です笑。とはいえもうほぼ完成といった感じですよね。今後も同じような改良の予定などありますか?

大井:今はスフィア・プラスだけでなく、形崩れによる不良の多いシルクも現在試作を重ねてます。

※SP102よりも先に、急を要していたルミが改良されました!(2020.06〜)

ルミを検品する仕上げ担当の飯野さん。改良されて仕上げも楽になったとのこと...

 

野村:最後に一言どうぞ。

 

大井:今回わたしの関わったこのスフィアプラス改良は、すでにベースがあって、それにこれだ!という技法も揃えられていたところからスタートしています。それでもこれだけたくさん試作と確認を繰り返しましたから、なにもないところから球体を作ろうとした初期の試みは本当に果てしない挑戦だったと思います。

インタビューを終えて

今後順次スフィア・プラスは改良されたものに移行していく予定です。皆様のお手元に届くのも、もう間もなくです。 

ミシンで生産というとなんとなく流れ作業のようなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思います。

しかし、トリプル・オゥの母体である(株)笠盛の社風は一人一人が考えること、思考を止めないこと。スフィア・プラスの改良もその土台があるからこそ出来たことのように思います。

現状に満足せず常により良いものをお客様に提供していけるようにこれからも進化し続けるブランドでありたいと感じます。